この山行報告は散文的でありまったく参考にならないことを予めお断りしておく。

6月くらいに今年のお盆に朝日連峰にある「八久和川」に行きませんか? とさがみ山友会のSさんから誘われた。実際のところ沢の経験はそれほど多くない私、日本三大美渓なんですよと言われ「いいですねー、是非お願いします」と即答したものの色々と調べていくうちに雪渓が残っている可能性が大であり、そもそもこんな長い遡行、最後まで行けるのかという不安と、東北の沢は昔に会山行で行った仙台の大行沢くらいだったので東北らしい沢に行ってみたいなぁという気持ちが心の中でバトルしていた。
そうこうしているうちに8月になり気付けば出発日の一週間前。前線と低気圧の影響で東北の日本海側は大雨の模様。八久和川も例外ではなく、間違いなく増水しており、転進先として北アルプスの双六谷も検討するが流域面積等を考慮し当初案通り、八久和川に行くことになった。そして迎えた8月12日、ここからこの夏最大の冒険が始まった。
12日、17時過ぎに埼玉県の某所に今回のメンバーであるさがみ山友会のKさん(L)、Mさん(SL)、Sさん、私U島の4名が集まった。Kさんのアウトバックに乗り込み、いざ出発。まずは関越道をひた走り新潟を目指す。そこから内陸部に入り込み、山形へ。道の駅 月山あさひ博物村で仮眠。入山祝いに途中のコンビニで買った新潟限定の「風味爽快ニシテ」がとてつもなく美味しかったので帰りに買って帰ろうと思うも帰路は東北道、次までおあずけです。
⚫︎翌朝、4:30起床で入渓点である皿淵沢まで移動後、林道脇に駐車し、入渓(6:21)。しばらく進むと左側からトガラ沢と出合う。そのままトガラ沢に入リ1000ちょいのコルを目指す。Pからの標高差は600ほどだ。
コルからは横沢を下る。右俣と左俣があり他の記録では右俣を下っているが、すこし行き過ぎたのか我々は左俣を下った。私は目撃出来なかったが、先頭を進むKさんは人を感じたのか、水流の中で慌ただしく逃げ出すイワナを見たそうだ。
幾度かロープを出し下ること4時間ほどで八久和川出合いに着いた(14:27)。
八久和川本流は下ってきた横沢とは比べものにならない水量と川幅。これが八久和川かとこれから始まる本流遡行に気持ちが高ぶる。上流側を見るとゴルジュ地形なため、右岸に渡り巻くことになった。いざ渡渉の段になって結構な水量だな、と思うもいかんせん初めての八久和川、これが普通なのか多いのかが分からない。
無事右岸に渡り、しばし藪を漕いだのち沢床へ降りた。少し先で左岸を進むのが困難になり再度の渡渉。
ここで一回目のアクシデント発生。スクラム渡渉で突破を試みるもあまりの水量に身体が浮き、4人とも流される。幸いにも少し下で戻ることが出来たが、こんなのがこの先続くのかと少し不安になる。そこからは積極的にフローティングロープを使い慎重な渡渉となる。Kさんの抜群の泳力でこなしているが、やはり思いの外時間がかかり、予定していたカクネ沢出合いのテン場予定地には到達出来ず少し手前の砂地で初日を終えた(16:01)。この日のテン場は快適ではあったが、羽アリ、アブの餌場でもあったようで白い岩が黒くなるくらいの羽アリに悩まされる。
⚫︎二日目、6:15に出発。初日と同じく水量多し。本流の遡行を続けるがロープなしでの渡渉は不可能に近く、時間短縮のため右岸を巻いた。その先はロープなしでも渡渉できることもあったが、いかんせん水量が多く時間がかかる。過去に遡行したことがあるSさんによると河原歩きが多く、ときに泳ぐ程度だったいうことで豪雨の影響がかなりあるようだ。
上がらないスピードにやきもきしながらも進むうち、とうとう圧倒的な水量に行く手を阻まれた。側壁から身体を出そうものなら流されることは間違いない。このまま水流を進むことが出来なくなり、左岸を巻こうと登るが巻いたとしても行動可能時間内にテン場が見つかる保証がなく、フィックスしたロープを残置して小赤沢手前まで引き返す。
戻る途中でさっき通った水流と景色が違っていることに気づく。行きには出ていた岩が水中にあるのだ。小赤沢出合い手前の砂地にて行動終了(18:00)。この日も虫に悩まされる。
夜、今後の計画を皆で再検討。おそらくこのペースと水量だと本流を遡行して源頭に至るのは無理だろうという空気になってきた。登山道へ合流した時点でエスケープする案が濃厚になりつつある中で、少し先にある茶畑沢の遡行記録を見かけたことがあるとの話がKさんから出た。大事なことだからもう一度書くが「見かけたことがある」程度ということで記録の内容を読み込んではいないし、もちろん遡行図もないとのこと。
概略としては、茶畑沢を詰め上げ、茶畑山から尾根を下ると皿淵沢出合に至る、つまり駐車スペースに戻れる、ということだった。これに関して各自意見が出たが、まずは翌朝に茶畑沢の出合まで行ってみようということで一致した。
この日、夜半から降り出した雨は朝まで途切れることはなかった。
⚫︎三日目、5:51に出発。昨日まで辛うじてグリーンを保っていた八久和川本流もブラウンになり水量は増加の一途。雨は降り続いている。昨日ロープを残置したところまで進み、Kさんが飛び込み渡渉を試みるが、人間一人の体重など押し寄せる八久和濁流の前には無力であった。渡渉は無理と判断し、Kさんが壁をへつって先を伺うがとてもじゃないが無理そう。
その奮闘を手前から見ていると、さっきまで出ていた岩がすでに水面下にある。1時間弱で30cm近く上昇しており前進も後退も危なくなってきた。いわゆる進退窮まる、といった状況だ。こうなると昨日の巻きを継続して茶畑沢出合まで行き、詰めるしか道がなくなった。
大変ではあるがロープは最初だけでいくつかの枝沢を越えなんとか茶畑沢出合に到達した(12:05)。
Mさん、高巻きのルートファインディング能力は特筆すべきものがあり、へなちょこな私は着いていくしか出来ないのだが、きっちりと的確なポイントに誘ってくれる。これまでの沢山行に裏打ちされているまさに経験が為せる技といった所か・・。
茶畑沢出合からの遡行はこれまでと比べると格段に快適で順調に進む。
700あたりの二俣のすぐ先にテン場を見つけ本日の行動終了(16:03)。
私は茶畑沢出合までの高巻きでチェーンスパイク片方とマットを失っていたが、皆がなにかの葉っぱを敷き詰めてくれ寝心地は思ったほど悪くなかった。
⚫︎四日目、5:22に出発。ブラウンだった水流が限りなく透明に近いグリーンに戻り水位も下がってる。意気揚々と歩き始めるもとんでもなくでかい滝が現れ行く手を阻む。ここでもまたMさんの能力発揮で左側のほっそい泥と岩が詰まったルンゼを上り無事巻き上がった。
今回の山行を通して基本フォローで登ってきたが、大滝のあとに出てきた中滝(という表現がぴったりな滝)で左岸からの巻きを試みるもかなり登らなくてはならず一旦降りた。右岸側だとコンパクトにいけるかなと見ていると横からロープがズイッと出てきた・・。え、マジっすかと思うもここまで来たからには登らなくてはと、片方ラバー、片方チェンスパで泥混じりの壁に取り付いた。最初の支点はなんかの根っこ(笑。そこからしばらく支点になるものがなにもなく、泥壁にぶっ刺したバイルのハンマー部を踏んで登る。雪が多い地帯ならではの下に向かって伸びる灌木に助けられながらなんとか巻き完了。
茶畑沢、人を受け入れるのは初めてなんじゃないのかって思うくらい自然で溢れており、焚き火の跡なんてのもまったくなく岩も倒木も出来たその当時のままようだった。
源頭の雰囲気になり、水も枯れた。稜線につく頃には端から見てもヤバそうな藪、藪、藪。稜線から茶畑山のピーク付近まで直径2cmはあろうかというようなツルが縦横無尽に広がり、灌木に絡みつき行く手を阻み、足元には笹と倒木。永遠に終わらない藪漕ぎ。一度だけ天国のような草原を通ったが直ぐにまた藪が始まる。
我々はこの日、下山出来るだろうと見込んでいたが、茶畑山を過ぎた辺りから暗雲が立ち込めてきた。強行しての深夜ヘッデン下山はメンバーの体調や体力を考えると危険すぎるとの判断で沢中4泊目が確定した。となると水である。急な涸れ沢で水音も聞こえないが偵察に出たMさんとKさんがおそらく豪雨の時の染み出しであろうか、窪みにたまる水を見つけきた。さすが沢に強い会のメンバーだと感心した。テン場、いや寝床と言うのが正しいか、2人づつに分かれてではあるが寝られそうな場所が見つかった。ここでもマットを失った私は途方に暮れそうななったがモンベルのフロートベストを2枚敷くと意外にも快適に寝られた。1200地点で行動終了(18:40)
⚫︎五日目、Mさんの正確無比、かつ非人道的な目覚まし、「みなさん、3:30になりました!」の声で起きた、いや、起こされた。前夜、1時頃に二足歩行の音が聞こえ目が覚めたが私が認識している時刻とMさんがトイレに行ったという時刻は大分ずれているのはきっと気のせいだろう。5:04出発、Sさんの体調も良さそうで一晩でHPは大分回復したようだ。MPが回復してればルーラで皿淵沢出合まで飛びたいところではあるが・・。
しばらくは藪が続くが皆今日は下りるぞ帰るぞという思いからか昨日よりスピードが早い。途中、炭焼き窯跡と思わしき場所や作業小屋らしき廃墟を越えたあたりからは随分とペースも上がり、700辺りの雨量観測所からは整備された道が続き、林道を通る車も見えた。さぁ終わりはもうすぐだ。(11:48)
⚫︎総括して
色んな要素が詰まった大変に濃い山行だった。これまでは長くても1泊、ほぼ日帰りが多かった私の沢山行だが、沢中での4泊は得がたい経験だった。今回のメンバーに感謝するとともにお誘いいただいたSさんに声を掛けてくれてありがとうございます、といいたい。
今回の山行で失ったもの、チェーンスパイク片方、サーマレストのマット、体脂肪4%。そして得たものはプライスレ・・、と書きたくなるが、リーダーやメンバーの判断とそれを遂行する各自の能力、置かれた状況を楽しもうという心意気かな、と思う。あわせて、沢に限らず山行中はなにが起こるか分からない、不測の事態に備え、体力のみならず、判断力や決断力においても常に余裕を確保しておくことが重要だと思った。
もう沢登り、いや、1泊以上の沢登りはいいかも、と思っていた私だが、一日も経つと八久和の完全遡行を是非とも成し遂げてみたいと考えているのだった。朝日の沢にはそういう魅力≒魔力が詰まっているのかもしれない。未だ見ぬ八久和の源頭部を想像して。
記:U島
※文中の時刻はMさんの記録によるものであり、以下は今回の山行のコースタイムである
○1日目
6:21林道皿淵沢出合いPから入渓ー6:59トガラ沢ー9:43 p1143沼ー14:27八久和川出合ー14:50対岸台地上ー16:01カクネ沢手前幕営地
○2日目
6:15幕営地ー7:24台地に上がるー9:26カクネ沢出合9:56ー11:14長沢出合ー11:33柴倉沢出合ー14:17小国沢出合ー16:16渡渉困難・巻き道ロープ残置地点ー18:00戻って小赤沢出合手前幕営地
○3日目
5:51幕営地ー7:00渡渉困難地点から高巻き8:30ー12:05茶畑沢出合12:15ー13:08戸立沢出合ー15:46 c700二俣ー16:03 c720宿泊地
○4日目
5:22宿泊地ー6:32 c780二俣6:58ー10:50 c844二俣ー12:58詰めの草原13:09ー14:20茶畑山(落とし物捜索)15:52ー18:40ゴウラ沢c1200宿泊地
○5日目
5:04幕営地ー6:25 c1137 6:44ー9:06 c944ー11:30 c700雨量観測点ー11:48 林道皿淵沢出合P





